日本と世界の金融教育の違いとは?今、家庭でできること

お金の教育

はじめに

金融教育は、将来の子どもたちの生活基盤を支える重要なスキルです。

日本では近年、高校家庭科での「資産形成」など、金融経済教育への取り組みが始まりましたが、世界と比較するとまだ発展途上の段階にあります。

日本と世界の金融教育を学校・家庭の両面から比較し、家庭で実践できる金融教育のアイデアを探してみます。

ここで云う「金融教育」とは、投資に限らない金融リテラシー全般の教育を指します。

日本の金融リテラシーの現在位置

なんとなく先進国に比べてお金の教育が進んでいない印象の我が国ですが、世界的にはどのくらいの位置にいるのでしょうか。

国内の調査

金融広報中央委員会 が2016年から3年ごとに「金融リテラシー調査」というものを実施しています。

この調査では、18~79歳の日本人30,000人を対象に、金融知識や行動に関するアンケートを実施する、という内容になっています。

世界の調査

世界では、OECD(経済協力開発機構) という組織が2020年に金融リテラシーに関する調査を行っています。

対象は26 の国と地域で、2020年の調査には日本・イギリス・アメリカが含まれていません。

アメリカでは、米国FINRA(金融業界規制機関) という組織が、2018年に調査を実施しています。

調査比較

日本での調査、OECD調査、FINRAの調査は共通問題が4割ほどあるらしく、そこでの比較を行ったデータが財務総合政策研究所 から公表されています。
※イギリスは2016年のOECD調査に参加しているので、参加時のデータで比較。

調査結果によると、米国FINRAの調査結果と、日本の金融リテラシー調査の結果では、日本の正答率が47%に対し、米国は50%と若干米国が上のようです。

OECD調査における設問に対して知識・行動面で正解・望ましい行動を選択した正答率は、OECDの調査参加国26の国と地域の平均正答率は62.7%、日本の正答率は62.5%で参加国の平均より下に位置し、26の国と地域に、日本・イギリスを加えた28の国と地域の中、日本は第9位でした。米国がここに入ると日本は10位となります。

順位国・地域正答率 (%)
日本62.5
英国64.0
1香 港79.1
2オーストリア73.0
3スロベニア69.8
4ロシア68.4
5エストニア67.4
6タイ66.2
7ポーランド65.3
8ドイツ62.4
9ジョージア62.3
10マレーシア61.8

出典:金融経済教育の日英比較と日本への示唆―EBPM 的視点から―

上記のランキングには、PISA* 2018 の金融リテラシー部門で2位のフィンランド、3位のカナダが入っていないことから、更に順位は変わる可能性があります。
* PISAは15歳を対象にしたOECDが主催する国際的な学力調査。様々なカテゴリーの設問がある

日本の教育機関における金融教育の現状

日本では、主に高校家庭科で「金融経済教育」が導入されています。

2022年の学習指導要領改訂により、資産運用やリスク管理といったテーマが加わりましたが、依然として時間が限られ、理論的な内容が中心となっているようです。

高校生のための金融リテラシー講座

金融庁が公表している高校生のための金融リテラシー講座 の資料を読んでみました。(「全体パッケージ版」のPDFを見ました。)

資料によると、「金融リテラシー」について以下のように書かれています。

金融リテラシーの定義

『金融に関する健全な意思決定を行い、究極的には金融面での個人の良い暮らし(well‐being)を
達成するために必要な、金融に関する意識、知識、技術、態度及び行動の総体』

OECD/INFE「金融教育のための国家戦略に関するハイレベル原則」(2012/06)

これを高校で教えてくれるようになったら本当に良いと思います。

むしろ、義務教育に組み込めないものかと思ってしまいますが、金融教育は実は人生において必須なようで必須でないものだと思います。義務教育化することはなかなか希望薄ですね。

現状、小学校・中学校時代に金融教育と呼べるようなものが存在しませんので、より一層高校での金融教育に期待を持ってしまいます。

高校での具体的な授業内容

資料内の要約すると、下記のようなカリキュラムとなっていました。

  • 家計管理とライフプランニング:
    • 収入と支出のバランスを理解し、生涯にわたる生活設計を考える。
    • 給与明細の見方や、将来の生活費の計画を学ぶ。
  • お金の使い方:
    • 欲しいものと必要なものの区別。
    • キャッシュレス決済のメリットと注意点。
  • 社会保険と民間保険:
    • 日常生活におけるリスクとその備え方。
    • 社会保険と民間保険の違いや仕組み。
  • 資産形成:
    • 貯蓄や投資の方法、利子や金利の概念。
    • 金融商品のリスクとリターンの理解。
  • ローン:
    • お金を借りる際の注意点や返済計画。
    • クレジットカードの仕組みや奨学金の理解。
  • 消費生活・金融トラブル:
    • 金融トラブルの具体例と対処法。
    • 相談窓口の情報。

出典:高校向け 金融経済教育指導教材の公表について

高校生が果たしてこの授業内容で金融リテラシーが身につくのか

資料を見て思ったことですが、果たしてこの内容で高校生が興味を持つでしょうか。

私はこの資料を元に、現在の先生方が具体的にどういった授業をなされているのかを知りません。

私自身が担当教員だった場合、時事ネタを織り交ぜつつ、興味を持ってもらうような話をすると思います。

投資教育に偏るのは良くないかもしれませんが、話のフックとしては必要だと思います。

  • 投資関連
    1. 高校生が知っているような有名企業の名前を出す
    2. その企業を○○年に買っていたら今頃○○円
    3. ビットコインネタ
  • 金融トラブル関連
    1. 実際に起こった事件の詳細内容
  • その他
    • ライフプランシミュレーションの具体化
    • デモ口座を使った投資体験

また、座学のみでなく日常生活でのフィールドワークも含めてお金の使い方・流通など、体験型でやるほうが良いのではないかと思いました。

国語は日常会話、算数も日常生活、理科も生活の中で目にする、
学校で習うことが日常生活で使える・見ることができる。
金融教育も日常生活に深く関係を持っています。

しかし、家庭科の授業のコマ数で金融教育のコマ数で、、、実際は時間的に深堀りしていくのは不可能なのでしょう。

加えて、金融教育は非常に更新性の早い分野だと思います。国語や算数と違い、税制を始め、民間の決済方法や新しい詐欺など、そういったものも含めてアップデートするとなると、まず無理だろうと思います。

そういった時事ネタは、自身でキャッチアップできるようになる、そのためのリテラシー講座なのだと思います。

日本の金融教育の課題

  • 実生活に直結した内容や、投資分野での教育・実学の不足。
  • 金融庁が教員の金融リテラシー向上を図っているが、専門教員は不在。
  • 授業時間の限界。カバレッジが低い。

といったことが挙げられると思います。

日本の家庭内での金融教育の現状

家庭内での金融教育も文化的に浸透しておらず、体系化もされていません。

しかし、金融庁や民間企業では様々な金融教育向けのコンテンツやイベントを発信しており、数年前に比べると、探せば出てくる、といった状況の変化を感じます。

家庭内での金融教育の実施状況

家庭内での教育に取り組んでいるご家庭ももちろんあると思います。
金融庁が主催したイベントのアーカイブ配信でイベントの様子を見ると、確かに小さなお子さんもいらっしゃいます。

春休み!親子でまなぼうおかねの教室グローバル・マネー・ウィーク2024
※リンク先でアーカイブ配信のYouTube有り

実態調査が無いのでわからないですが、多くのご家庭では以下のような状況と推測します。

  • 多くの家庭で「お金の話」はタブー視されている。それを継承している。
  • 子どもへのお小遣い制度は普及しているが、計画的な教育にはつながっていない。
  • 教育の仕方が分からない。

家庭内教育での課題

  • 親自身の金融リテラシー不足。
  • 金融情勢の変化への対応不足。
  • 学校教育との連携が少ない。

世界各国の金融教育の現状

一方で、各国での金融教育の現状はどうでしょうか。

欧米は金融教育が進んでいるイメージがあります。

主要国の特徴や内容

金融教育制度が評価されている国と、その内容を挙げてみます。

国・地域特徴内容例
フィンランド小学校から金融教育を開始銀行訪問、家計シミュレーション
アメリカ州ごとにカリキュラムを設定クレジットスコア、投資体験
オーストラリア金融教育プログラムが全国で標準化家計簿、ローンのリスク学習

フィンランドの特徴

金融先進国の強いフィンランドですが、小学校から金融教育が始まるそうです。

2年に一度の教育内容の刷新に加え、段階的に金融知識を増やしていくカリキュラムが組まれています。

中学・高校では「家計管理」「貯蓄」「税金」などを重点的に学ぶようです。

また、学校教育だけでなく、家庭での金融教育も重要視されており、親が子どもに家計簿を見せたり、予算管理について話し合う文化が根付いています。

家庭と学校が一体となり、日常生活の中で学びを強化する仕組みが出来上がっているということです。

体験型ビジネス村「Yrityskylä」

フィンランドの取り組みで凄いなと思ったのは、体験型の取り組みで「Yrityskylä」というプログラムです。(恐らくユリティスキュラと読む?)

参考記事:Finland fuels children’s future with financial literacy and food

要約すると、

フィンランドの首都ヘルシンキ郊外の倉庫に「架空の町」を作り、12,13歳の6年生数十人が、金融リテラシーの向上を目的としたビジネス村で学習するという体験型の学習コンテンツです。

そこで生徒たちは、様々レッスンを受け、ビジネスや経済、そして社会がどのように動いているかを勉強します。そして、どのように仕事に応募するかを学びます。

最後の1日は実際にこの町で経済活動を行います。仕事をして稼いだり、稼いだお金で飲み物や食べ物を買ったり。お金に困ったときにどうするか、など。

フィンランドの小学6年生の実に91パーセントが参加するプログラムです。

凄い取り組みですよね。
非常に実学的です。

高学年向けのキッザニアというところでしょうか。

アメリカの特徴

アメリカも金融教育は先進的なイメージがあります。個人的には親世代がみんな投資をしているイメージがあります。

州ごとに異なるカリキュラム

アメリカでは金融教育は連邦政府が一括して管理するのではなく、州ごとにカリキュラムが決められており、一部の州では、高校卒業要件として「個人金融(Personal Finance)」の授業を必須にしている州もあります(例:ユタ州、ミズーリ州など)。

NPOやNGOの積極的な支援

アメリカでは、金融教育を支援する非営利団体や民間団体の活動が盛んです。

「Jump$tart Coalition」(産学官民で設立したNPO法人 1995年設立)
個人の金融リテラシーの向上を目的に設立されたNPO法人

「Next Gen Personal Finance (NGPF)」
といった団体が、学校に教材を提供し、教師の研修も行っています。
アメリカでは25,000校以上の学校でNGPFの教材が使用されてるそうです。

株式市場シミュレーション

Stock Market Game(株式市場ゲーム)というアメリカで広く利用されている教育プログラムで、生徒は仮想の資金(例:10万ドル)を使って株式や投資信託を売買します。この活動を通じて、投資戦略やリスク管理を学びます。

Stock Market Game:
提供元:SIFMA Foundation(証券業界が支援する非営利団体)
活用範囲:全米の中学校・高校

生徒が仮想資金を用いて実際の株式市場に投資するシミュレーションを行うプログラムです。
株式市場の仕組みやリスクとリターンの関係を実践的に学び、長期的な資産運用の重要性も体感することができるのは素晴らしい取り組みだと思います。

総じて非営利の民間団体の貢献が大きい印象を受けます。

その他の事例

アメリカ: レモネードスタンド

メジャーな話ですが、アメリカでは子どもたちが夏の日に「レモネードスタンド」を開くことが広く行われています。これは、子どもたちが自宅前や公園で自家製のレモネードを販売する活動で、起業精神や金銭管理のスキルを自然に学べる機会となっています。

  • 教育的効果:
    • 子どもたちは、自分で商品を企画し販売するプロセスを通じて、起業の基本を学びます。
    • 材料費、売上、利益計算を経験し、収支のバランスを理解します。
    • 売るための施策やアイディアなど、実践的なマーケティングを思考します。
  • 社会的影響:
    • レモネードスタンドは小児がん支援のための寄付活動を指すこともあります。
    • 多くの子どもたちが収益を慈善団体に寄付することもあり、社会貢献の重要性も学びます。

出典:アレックス・スコット

世界の金融教育と比較した日本の課題

ここまで各国の取り組みや、日本の現状を見てきましたが、挙げるとキリがないほどに課題はあります。

  • 金融教育の開始時期およびカリキュラム
  • 教材・コンテンツ、更新性の向上
  • 教員のリテラシー、教員の支援機能
  • 産学連携、官民連携
  • 実践機会の提供、日常での体験や復習
  • 家庭内のリテラシー
  • 国全体での意識向上

それでも、私が学生だった頃に比べるとインフラ環境を含めてかなり状況は変わってきていると感じます。

時間はかかるでしょうが、徐々に日本の金融教育も前進すると期待しています。

今、家庭でできること

家庭での金融教育は、日本においてまだ浸透していない部分が多いですが、年齢・段階にフィットした教育が重要だと感じます。

金融教育といっても幅が広いので、いきなり投資教育をしようとしても難しいことも理解しました。

年齢ごとに出来そうなことを挙げてみます。

年齢層家庭内教育の例
幼児期(3~6歳)・お金の基本的な認識を教える(例: 硬貨と紙幣の違い)。
・お店ごっこでものとお金の交換の概念を学ぶ
小学校低学年(7~9歳)・キッザニアで職業体験する
・お小遣い制を導入し、失敗から学ぶ
・計画的に使う方法を考える機会を与える
・貯金箱を併用して貯金や計画の重要さを学ぶ
・欲しいものと、必要なものをリストにして練習する
・実際の買い物でモノの価値を知る
小学校高学年(10~12歳)・お小遣い帳をつけて、収入と支出の記録を習慣化する
・自分で買い物の計画を立て、実際に買い物をする
・なるべく現金で教える
・教育ゲームなど、デジタルコンテンツを使用する
中学生(13~15歳)・学校生活で必要なものなども予算管理をする
・キャッシュレス決済やポイント制度の仕組みを教える
・投資の仕組みを教える
・デモ口座などで投資体験をしてみる
・(早ければ)投資を実践してみる
高校生(16~18歳)・ライフプランニング
・銀行口座を開設し、貯金や簡単な金融サービスを体験する
・学校教育で習う金融リテラシーの範囲でリスク管理を教える
・クレジットカードやローンの仕組みを学ぶ
・保険や税に関する知識

共通の課題になりそうですが、「楽しく学べるか」そういったエンタメ的なコンテンツがあるか、という部分は重要になりそうです。

我々親からすれば、お金は大事だよ、なのですが、子ども目線で見たとき、興味を持ってもらえるかが疑問です。そこが家庭内での工夫の見せ所になると思います。

また、実践の場を提供するのも家庭の役割だと思います。買い物や、契約、投資デモなど、日常生活の中で、意識的に考えれば親が子に教えられる金融教育はたくさんあるはずです。

親子で楽しく、実践的に学ぶことで、子どもたちが将来に役立つ金融リテラシーを身につける手助けになるでしょう。

個人的にはアメリカの投資シミュレーションが良いなと思うので、ゲームで学べるようなコンテンツが日本でももっと増えたら良いですね。Nintendo Switchの教育系ソフトがないか探してみます。

追記
「あつまれ どうぶつの森」というNintendo Switchのソフトが子どもの金融教育に向いている、という記事をよく見かけます。

内容的に「ローン」「金利」「株」といったものをゲーム内で扱うようなので、購入予定です。